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タランティーノ的『かまいたちの夜』?暴力映画史に名を刻む力作『ヘイトフル8』をザックリとレビュー

人間の性悪さ無慈悲さを徹底して暴く悪夢のような真冬の西部、怒涛の三時間!!

オススメ強度:★★★★

雪深い山をちんたら進む馬車。しばらくして死体の山に佇むサムジャクが唐突にその姿を表す。冗談じゃなくマジで映画が始まって10分と経ってない。どう考えても不自然だし、もう嫌な予感しかしないぞ。

『ヘイトフル8』は、クエンティン・タランティーノが『ジャンゴ-繋がれざる者-』の後に再び製作した西部劇だ。また、自身にとっても第八作目に当たる長編映画であり、尚且つ観ていてたちまち不快になるような、バラエティ豊かな暴力描写を通じて人間がどれほど救いようの無い凶悪な生物か、その様を容赦なく銀幕にぶちまけたスリラー過ぎるサスペンス映画だ。

ジャンゴは、かなり奇をてらった構成ながらも王道な映画だったと思う。今作はもはやイツメンな俳優陣を引き連れ『レザボア・ドッグス』まで暴力の原点回帰を目指すついでに、探偵モノあるあるを西部劇に追加したみたいな構成。案の定、時間軸がザッピングされている為、屋敷の中に一体何者が潜んでいるのかが掴めず、油断出来ない。ゲームに慣れ親しんだ自分には、初めて『かまいたちの夜』に触れた時のような既視感があった。

推理小説の場合、オチは基本的に一つだと思う。しかし、ノベルゲームやADVではエンディングや、そこに至るまでの経過に結構バラエティがあったりする。推理小説マニア同様に「私だったらこの場合、こうしたい」とか「どう事態を丸く収めるか」といったシミュレーションに思いを巡らす事もあるだろう。今作はさながらタランティーノがプロデュースした『かまいたちの夜』の様だ。なお、本作のオチ…

撮影のレイアウトもユニーク。役者の顔をドアップで写したかと思えば、手や腕、薬莢や足元など銃や体のパーツのみをやたら集中してねっとり撮影し、そうかと思えば誰かが撃たれたり、くたばる瞬間になると再びドアップで写したりと画面構成が相変わらず奇抜極まりない。

印象的なカットが二つある。劇中、コーヒー入ったポットに刺客が毒を盛るカットがあるんだけど、画面の外から手袋はめた手だけが毒瓶持ってニュッと出て来るんだよね。話のくだりとしては超マジメ超シリアスなんだけど、そこだけ観るとギャグみたいに間抜けで笑ってしまう(笑)

そして中盤。一人、また一人と男が犬死にして、いよいよ業を煮やしたサムジャク扮するウォーレンが銃を突き付けて、男達を壁に追いやり尋問を始める。途中、ウォルトン・ゴギンズ扮する新人保安官(嘘を言うな!)だけに「こっち来い」と伝え、銃を握らせる。卓に座ってサムジャクが一発一発弾丸を装填する間、画面の右側いっぱいに映った、銃を握り締める保安官の手。顔は全く映らない。ただ銃を握る手だけ。画面が男たちの顔を写す。それから、画面がまた戻る。画面の奥のテーブルでまだ弾をリロードしてるサムジャク。画面の右には銃を握る手。言いようのない緊張感と不気味さに思わず身震い…

また全編通して正義不在であり、「まともな人間なんてこの世に居ねェんだよ!」という製作陣の自棄ぶりが伺えるようだ。ウォーレンが『リンカーンの手紙』を通してアフリカ系の男がアメリカの地で孤独に生き抜く事がどれほど困難かルースに説く一方、当のウォーレンも年老いた将軍に「お前のせがれを惨めな死に追いやったの俺だ!」と迫ったり、ボブに対して「バーを見てみろ。あそこに何て書いてる?あ?」と吐息が掛かる距離で問い詰めたかと思えば、至近距離から銃を乱射してボブを凄惨にぶっ殺したりとまるで容赦無い。

当時の世相、また銃を持つ者と持たざる者、誰もが抱く差別意識や犯罪心理を真冬の山にぽつんと建つ粗末な館の中で、徹底的に暴き出した『ヘイトフル8』。世の中には他人に薦める事が躊躇われる暴力映画も少なからず存在するが、本作はそんな暴力映画史においてマスターピースと言っても構わない一作だろう。サムジャク、カート・ラッセル、ウォルトン・ゴギンズ、そしてジェニファー・ジェイソン・リーら俳優陣の、全力を出し切った向こう見ずなパフォーマンスに驚かされる。それと、ブルース・ダーンやチャニング・テイタム等、名のある役者がぽっと顔出した後に即座に撃ち殺される無様さにも圧倒された。万人にオススメは出来ないが、映画好きならきっと痺れる事だろう。惨たらしく、救いの無い三時間に頭をぶん殴られた気分だ…

…そういやサムジャクとチャニング・テイタムって、確かリッチモンドでバスケットやってませんでしたか??