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スカヨハエログロSF奇譚は攻殻機動隊への布石?「アンダー・ザ・スキン-種の捕食-」!!

あらすじ

エイリアン侵略モノでありながら、徹底してシンプルな脚本です。ここでは敢えてプロットのご案内は致しません。是非、ご自身の目でお確かめ下さい。

↓↓↓以下、ネタバレ注意!!↓↓↓

レビュー「その日暮らしを強いられる超越者の奇妙な心情風景」

オススメ強度:★★★★

この映画を誘拐を伴う人身犯罪や、セックス・トラフィック、あるいは搾取する側とされる側、凶暴で身勝手な男性性と鑑みて常に被害者側となる女の悲劇性のメタファーだ、と観る向きもある。しかし、本質としては最初に書き記した通り、異星人侵略モノで間違い無いんだろう。原作は未読だが、映画を鑑賞後は目を通してみたいと感じた。 

この手の侵略モノフィルムは、Sci-Fiというジャンル映画の始祖から現在に至るまで、数多創造され続けている。しかしながら、劇中の主人公である彼女(スカーレット・ヨハンソン)の設定や内面の表現が独創的で、とにかく異彩を放っている。

劇場公開時の予告編やパッケージにも表記がある通り、要はスカヨハが演じる彼女の『狩り』の風景を、とにかくひたすら淡々に描いている。しかし、具体的な情報は全く提示されない為、その時その時の登場人物の表情から、鑑賞者がひとつ、またひとつと状況を想像して状況や感情の起伏を汲む形となる。

その為、「映画は基本的に王道ハリウッドエンタメしか観ない」とか「なんで映画観るのに国語の授業みたいな事しないとイカンのか」と思う方にはかなり退屈な映画だろう。

だが、雨に濡れた冷たいユナイテッド・キングダムの街中、一転して殺風景な農地、暗く薄暗い雑木林など移り行く景色はどこか寂しさを感じさせるが、いずれもとても印象的で、圧巻の一言。 更に、彼女らエイリアンの変装とか食事(?)や、初めて食べたケーキを思わず吐き出しえずくシーン、車内で執拗に口紅を塗り込むカット等々、この映画ならではな、強烈なインパクトを残す描写も目白押し。

人によって抱く感想は様々だろうが、オススメしたい一作。この映画で私が特に大好きなポイントはやはり、スカヨハの全裸でs(ryあまりにも異色過ぎる、主人公のエイリアンの描写だ。

かつてリドリー・スコット御大があのバケモノをスクリーンに解き放って以来、数えきれない程のエイリアンが銀幕でド派手に跋扈し続けたが、それらに比べ、スカヨハ演ずる彼女の暮らしぶりはなんと質素で味気無い事か。

彼らも生き物なので、当然食べて代謝しない事には死ぬ訳なんだが、どうやらこのエイリアン、ひどく困窮している様子。それにプラスして、獲物の選定も慎重に行わなければならない。ひもじいのに選り好みしてる場合か!というツッコミも当然あるかと思うが、エイリアン達側の事情も、劇中から何となく察する事が出来る。 

スカヨハがバンの運転シート越しや対面で標的を『品定め』する一連の掛け合いは、見ようによっては大変シュールかつ滑稽で、この映画の重要なキモにもなっている。

本作に内包された主題には『新たな価値観の芽生え』もあるんだろう。食を満たす単なる獲物。それを初めて逃がした事で彼女に転機が訪れる。自らの正体を暴かれる事を恐れながら、人間に関心を抱き始める彼女。鏡で自分の体をしげしげと観察したり、冴えない中年男と寝ようとしてみたり、次第に獲物のみならず、自分自身にも興味を抱き始める。 

しかし、エイリアンと我々人間との間の溝はやはり深く、最後にはやるせない幕引きが訪れる。曇天に立ち込める黒煙を観て不思議に感じた。彼らと私達、身勝手だったのは一体どちらだったんだろう?

解説、そして"GHOST IN THE SHELL"

UK出身で緻密な技巧派ながらも、独特の艶めかしさ際立つフィルモグラフィで常々、賛否両論を巻き起こして来たジョナサン・グレイザー監督。長編映画製作は、グレイザー監督にとって九年ぶりとなった。

製作にあたってスカヨハのフルヌードと体形の描写、そして現地でのゲリラ撮影が話題に。また先天的な腫瘍症を患い、過去にいじめや差別など不当な扱いを受けながらも俳優としてのキャリアを選択したアダム・ピアスン氏の長編映画処女作でもある。

彼は同じように外見にハンデを持つ人々を、偏見や差別から救済する慈善団体Changing Facesに参加。

www.changingfaces.org.uk

俳優業として意欲的に活動する事はもちろん、団体の慈善活動や、周知の為の広報にも精力的に参加中との事。

劇中、アダム氏が演じた男とのふれあいが、スカヨハ演じた主人公にとって大きなターニングポイントとなっている。今作でのスカヨハとの共演、更に劇中の演技の内容に触れ「次はボンド映画のヴィランも披露出来れば」とのコメントも。彼の臆する事の無い、体当たりな演技もまた必見だ。

本作を視聴する上で見逃せないポイントがもう一つ。それが"GHOST IN THE SHELL"への繋がりだ。「アンダー・ザ・スキン」は実写版における草薙素子のキャスティングが、何故スカヨハだったのか?という疑問を払拭してくれた一作だった。

なんでかってスカヨハの無機的なエロさと表情のグロテスクさ、 それと加えて劇中、彼女の醸し出す何とも言えないシュールな雰囲気が飛び抜けて際立ってる。 更に更に、今作で表現された肌の下に潜む正体であったり、物語の終盤「ヒト」に興味を抱き始める描写なんかは、ぶっちゃけ実写版攻殻機動隊でそのまま模倣されているような気も。

「GHOST IN THE SHELL」と「UNDER THE SKIN」 直接的な繋がりは全く無い物の、どちらもアイデンティティーに苦悩し、激しく動揺する女性を描いたSF映画の意欲作。抱く感想は様々かと思います。是非、両作品を観比べてみて下さい。

インフォ、キャスト、製作スタッフ等まとめ

原題:Under The Skin

製作年:2013年

監督・脚本:ジョナサン・グレイザー

製作主導:フィルム4プロダクション,英国映協(BF1)

製作国:イギリス,アメリカ,スイス

登場人物

『狩り』を続ける彼女:スカーレット・ヨハンソン

バイクの男:ジェレミー・マクウィリアムス

川辺の死体:リンゼイ・タイラー・マッキー

一人目の男:ケヴィン・マクアリンデン

海で泳ぐ男:クリストフ・ハーディク

異形の男:アダム・ピアスン

木こり:デイブ・アクトン

('19 10/7 追記修正)