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今春劇場公開作品を振り返る③~GHOST IN THE SHELL~

基本情報

原題:GHOST IN THE SHELL

製作年:2015年

監督:ルパート・サンダース

脚本:ジェイミー・モス,ウィリアム・ウィーラー,アーレン・クルーガー

製作主導:ドリームワークス,リライアンス・エンタテインメント,アラッド・プロダクションズ,フワフワ・メディア,上海電影集団公司

製作国:アメリカ

登場人物

ミラ・キリアン少佐/草薙素子:スカーレット・ヨハンソン

クゼ:マイケル・ピット

バトー:ピルー・アルベック

トグサ:チン・ハン

荒巻大輔:北野"BEAT"武

 

あらすじ

公安九課の捜査官として日々、街を駆ける女ミラ・キリアン少佐。

『電脳化』『義体化』により、機械の体の強化人間となった彼女は

いつからか魂の拠り所、『ゴースト』に不信感を抱くようになり、

自分自身の存在に疑念すら覚え始めた。

 

時を同じくして発生した、ハンカ社の上層幹部を狙った襲撃事件。

同社はサイボーグ技術で業界を牽引する最大手で、少佐にも技術供与を施していた。

事件では単なる殺傷のみならず、電脳に対する違法なハッキングまで確認される。

少佐は、この件に関して異様な程のシンパシーを覚えていた。

周囲の制止も聞かず、破壊したゲイシャドロイドにダイブを行う彼女。

案の定、多発するハンカ社幹部襲撃の裏に共通点が見つかり始める。

 

捜査を続ける一方で、ハッカーの罠が引き起こしたバグにより

普段の冷静さが失われ、次第に不安定となる少佐。 

ーー私は一体、何者なんだ?

淡々と事件に応じようとする少佐の前に、思いがけぬ影が立ちはだかる。

レビュー「冷静に評価出来ない一作」

オススメ強度:★★★☆☆

すみません。自分で書いててどうにも纏まらない為、

後で改めて『攻殻機動隊』の考察記事とか執筆するかも。

字幕版と吹き替え版、二回鑑賞。

田舎だと字幕版を早々に締め切り、吹き替え版に切り替えていました。

例の追走シーンは光学迷彩も相まって、ロスに現れたプレデターを思わせます。

国内においては、どちらかというと否定的な意見が多い(ように思う)本作。

意外な事に'95年劇場版、イノセンス、更にS.A.Cの要素が各所に

散りばめられ、ファンには意外なサプライズも劇中に施された一方、

「攻殻の良い所だけを取り出した、表面だけの薄い作風」との評もあります。

やたらと感情的になる少佐の姿も、賛否が分かれそうなポイントです。

 

元々のプロットはやや難解な運びである為、

今回の実写化に伴い、かなりシンプルな構成に変更されています。

前述した通りですが、正直に申し上げますと

冷静にレビュー出来ない映画です。

ツカヨハの起用は所謂、"White-Washing"なのでは?との懸念が欧米圏で

広まり大変な議論を呼びましたが、元々押井守監督が攻殻を手がけた際、

極東アジアを舞台としつつも、特定の国の物語では無いとの見識であり

こういった議論が噴出した事態に関して、大変驚いたそうです。

www.eartheblood-sucker.com

またスカヨハ演じる、劇中の少佐のバックボーンには

実はひねりが含まれている為、サイボーグ化や電脳を含め、

黒幕が素性を表す落とし所までのギミックとして機能しています。

 

製作の企画が立ち上がってから公開に至るまで、ほぼ十年の時間を費やした本作。

肝心の評価ですが、全体の構成がどうにも中途半端に感じられてしまい、

ややオススメし難い仕上がりだなぁ…というのが私自身の感想です。

最もこのような感想を、私含めた日本のシネフィルが抱きがちなのは

"攻殻機動隊"という作品が好きで、作品の含蓄もあるからかもしれません。

その為、映画は好きなんだけどSFジャンルはたまにしか観ないし、

九課も知らないという方は割と楽しめる一作かと思います。

 

じゃあ何がそんなに気に入らないのか?と言うと『舞台』『主題性』の二点。

まず攻殻機動隊の下地には、少なからずブレードランナーが影響しています。

(↑劇場公開版は勿論の事、ディレクターズ・カット版、リドリー・スコット監督自ら再びメガホンを握り再製作を行い、エンディングをも推敲し直したファイナル・カット版、三つのエディション全てを網羅したBlu-ray。ポストモダンな世界観のみならず、再構成されたファイナル・カット版で暗い未来を暗示したハードSFの金字塔) 

ブレードランナーは序幕から情報の渦に圧倒されます。

行き交う人々は肌の色や服装はおろか、話す言語すらまるで一致しません。

明滅するネオンサインの表示もごった返し、屋台に寄れば厨房を仕切る主人が

「二つで十分ですよ!信じて下さいよ」(任せて下さいよ、との説もあり)

とハリソン・フォード演じるデッカードに日本語で返します。

 

ポストモダンの意味は知らなくても、この序盤の描写だけで

「あぁ私達の住む文明は、とうにぶっ壊れて無くなった世界なんだ…」と

そう納得出来る程、汚らわしい混沌に満ちた世界がスクリーンに横たわります。

攻殻機動隊の連載が始まった当初、公安九課の面々に託されたテーマは

様々だったとは思いますが、デッカードがもし日本に居たら?という

クリエイティブで好奇心に満ちた試みも含まれていたように思います。

 

汚染され尽くした都市、文化圏の崩壊、神々や神秘性が失われた世界、

そしてもう一つ、情報伝達が極限まで進み”曖昧で不鮮明なアイデンティティ”

と似通ったテーマで、尚且つ『自分は何者で何処から来たのか?』

という自己認識の問題に真っ向から挑んでいます。

今作で表現されたアジアの風景は、肥大化と腐敗を繰り返す中国都市を

モチーフとし確かに雑多な印象ではありますが、何と言いますか

綺麗過ぎ

これは監督であるルパート・サンダース氏の作風かもしれませんが、

あらゆるカットが透き通り、神秘的な仕上がりです。

それに劇中の言語が英語と北野武監督の日本語二つだけです。

日本語吹き替え版だとベテラン声優陣の御尽力のおかげで

気になりませんが、原語版だと明らかにたけしさんだけ一際浮いちゃってます。

もっと他民族が集まった様相が欲しかった所。

総合的に鑑みて、もっと汚らしい画風や描写の方が最適だったと感じます。

 

更に加えてIT技術とサイバネティックによって、何者をも超越した人類が、

もっと先へと進化出来るか?という疑問も攻殻機動隊のテーマでした。

原作においても、押井監督の劇場版二作でも、草薙素子とバトーの

視点を通し、不死身となった強化人間の未知なる歩みを描いています。

黒幕の設定や九課メンバー、ハンカ社側の事情などを観ると

今作ではそういったテーマが、ごっそり抜け落ちているような気がします。

 

実写化企画の脚本ではとにかくシンプルさが求められた様子ですし、

陰謀論が実しやかに語られ、冷戦によるアカの脅威も経験した欧米にとっては

今作のような"個人に対する組織の攻撃"の方がよっぽど恐ろしいでしょうが、 

無機的なテクノロジーの産物に神が宿るか?というテーマにもっと

迫って欲しかったし、エンドクレジットに流れる川合憲次氏の

「謡」(あぁ^~がぁ~まぇばぁ~で大変著名な攻殻の主題曲)も

正直あんまりマッチしていないように感じられました。

(↑'95年攻殻機動隊のサウンドトラック。絶盤の為、入手が困難となっていますが、川合氏の麗しく圧倒的な音作りは一聴の価値あり。加えて古語で歌われるテーマ曲『謡』の歌詞は攻殻機動隊の物語を端的に示した歌となっています。)

欧米との価値観の違いと言えばそれまでですが、公安九課を描くにあたって

これらは不可欠な要素だと個人的に感じていた為、残念です。

逆に今回の実写化でコレは良かった!と感じたポイント

良かった点として、簡素なあらすじのおかげで登場人物の掘り下げが

緻密に行われていた点ですね。

攻殻機動隊結成の物語に関しては、既にARISEもありますが

今作においては、主人公である少佐は勿論の事、

九課メンバーであるバトー、荒巻の描かれ方は中々興味深くてGood。

原作でも押井守監督作(攻殻機動隊/GHOST IN THE SHELL '95 日本)でも、

公安九課が、さも当然のように仕事にあたる形で幕を開ける為、

そこに所属するメンバーに対する説明がほぼありません。

なので今回のように、バトーが義体化する経緯などはとても新鮮でした。

それと北野武監督演ずる、公安九課のまとめ役荒巻の出番が比較的多いので、

九課という組織の内情も、彼を通して把握する事が出来ます。

今作、荒巻のキャラが控えめ過ぎとの意見もあるようですが、

イノセンス観てからですと、この穏やかな構え方もイイな!と思えました。

 

また劇中、段々と制御が利かなくなる少佐に呼応するかのように

それまで事務方の穏健派だった荒巻が、かつての冷徹な武闘派ぶりを

取り戻すようにも映り、演技も演出も個人的には好きです。

北野監督も老いたとは言え、駐車場で刺客を始末した後の排莢や

ラストの背中だけを黒々と写すカットは、'80~'90年代の北野監督の

荒々しいフィルモグラフィが彷彿されるようで、痺れました。

 

欲を言うならせっかくキャスティングした訳ですし、トグサやサイトー、

イシカワ等々、九課サブメンバーの出番も更に欲しかった所。

更に日本語吹き替え版はかつての劇場版、S.A.Cの面々が再び集結。

アニメに魅入ったファンにも嬉しい限りです。

トグサを演じたチン・ハン氏ですが、今作でもおいしい脇役でしたね。

劇中、彼が握っている銃はキアッパ・ライノでしょうか?

何にせよヘンテコなリボルバーはトグサのトレードマークですね(笑)

 

もう一つ、作中のヴィランの存在です。今作は二部構成で、

第一幕はマイケル・ピット演じる悪党へ肉薄する内容なのですが、

彼はS.A.Cファンやホラー映画好きには、とりわけ印象深かったかと思います。

冷たい機械でツギハギにした、歪で不気味な体を引き摺るようにして歩き、

少佐に触れ合う時はやたらと近しく、落ち着き払った口調で話し、

お尋ね者の身にも関わらず紳士的とすら感じるその男の描写は

なんというかヘルレイザーに登場する魔人達のようで、強烈な存在感でした。 

実写化での収穫を挙げるなら、ビギンズとして及第点といった所でしょう。

相変わらず遅い日本発信コンテンツの実写化企画 

まず、攻殻機動隊の実写化企画が持ち上がったのが2008年だったワケですが、

スタジオ側のプロデュース不足が露呈し案の定、製作は早々に難航。

一昨年に至って脚本の骨子がようやっと纏まり、キャスティングや

製作陣やスタジオの摺合せも始まりましたが、ここでプロダクションと合わせ

配給の両方を担当するはずだった、ドリームワークスが製作のみ担当する運びに。

 

最終的に配給はパラマウントと東和、プロダクションはドリームワークスと

その他、アジア資本の新興スタジオが共同で行う形で落ち着きました。

まさか本当に十年近く待たされるとは…

しかし、日本のコンテンツをハリウッドでリメイクorリブートするぞ!となると

製作が遅々として進捗しない事態は前例もあり、悪しき伝統と化してます。

www.eartheblood-sucker.com

(↑コンセプトと権利関係で製作側が揺れに揺れた挙句、プロダクションもままならず芳しくない評判を賜った『日本発信のハリウッド資本コンテンツ』の典型例)

今回に限らず、日本発信のコンテンツを海外スタジオ主導の元、それなりの予算で

創作しようとする度、毎度毎度製作が難航していますが、思うに日本側の

「こういう映画を創りたい!」というプロデュース精神が足らないか、あるいは、

向こうのスタジオと日本側との連携が上手く纏まらない結果なのでしょう。

今回もファンからは「何故、今頃?」という意見も少なからずあったハズです。

今後こういった実写化企画がどれぐらいあるか分かりませんが、

少しでも環境が変わり、改善があればと切に祈るばかりです。