血を吸う大地ッ!!

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ダクソ風味の狂った冒険映画『アナイアレイション-全滅領域-』をザックリとレビュー

モチベ30%ぐらいの女性5人組vs狂気を撒き散らす”光”のドーム

オススメ強度:★★★☆☆

作家、プロデューサー、脚本家、更に'15年以降は映画監督とマルチに仕事をこなす、芸術家肌なアレックス・ガーランド氏が手掛けた冒険恐怖映画。ソフト化は勿論の事、NETFLIX加入者であればいつでもどこでも鑑賞可能。スマホで視聴した時にデータ飛びと字幕にバグがあったらしく、PS4で改めて見直したついでにレビュー。若きダニー・ボイルとのデュオ時代から、そこそこなオタクっぽさを感じさせてはいたが、本作は'80~'90年代に掛けてサム・ニール御大が随分ガンバっていた『真相に近づくに連れ、みんな狂っていく』系のSFホラーを現代に蘇らせたかの様だ。

ストーリーの主軸となる主要な登場人物が女性だけの五人組という異色さ、新鮮さばかりに目を奪われがちだが、そこは英国アーティストなアレックス。各キャラクターの掘り下げと演出は抑揚に富み、終盤における灯台での抽象的過ぎる攻防戦は何と言うか、かなり詩的な雰囲気で、あそこだけ切り取ったらまるで別な映画にも思える。

劇中で夫婦役のナタリー・ポートマンとオスカー・アイザックのふたりにも注目。両名ともスターウォーズ・サーガでの活躍は勿論、様々な映画に引っ張りだこの著名な演者であり、目がクッキリして、鼻筋通ってて、表情も受け取り易い、言ってみればキャッチーな顔してる美男美女だと思うんだが、本作ではかなりクセの強いやつれた目元のメンヘラ演技に徹している。*1役者さんのファンでNETFLIX既加入者の方は色んな意味で必見。

 

一年ぶりに再会を果たした生物学者のレナ(ナタリー・ポートマン)と、夫で米軍に務めるケイン(オスカー・アイザック)。しかし再会も束の間、ケインは突然昏倒してしまう。病院に向かう途中、今度は米軍が夫婦の身柄を確保。向かった先の基地でヴェントレスと名乗る学者(ジェニファー・ジェイソン・リー)と会ったレナは、とある灯台を中心に虹色の光をまとった謎のフィールドが広がりつつある事、夫のケインは一年前にその中へ侵入したらしい事、更に第二次調査団が近々派遣される予定も耳にする。

夫の身に何が起こったのか? 虹色の輝きは何なのか? の中心にある灯台に一体何があるのか? 真相を探るべくレナは調査団に志願、の中へと足を踏み入れるのだった。

あらすじだけ抜き取って書くとかなりクラシックな印象だが、前述した通り五人の女性を中心に据え、主役のレナの複雑な内情や夫ケインが任務中に何を目にしたかを巧みに構成。VFXと特撮効果も、色味こそややハデだが中々な不気味さで好印象。そして何より突如として現れ、劇中の環境に多大な影響を与えたがかなり強烈な存在感を放っている。

原作は未読だが、相手となるは目的も不明、姿かたちもコレという物が無く不定形、に触れた者は人間も植物も動物も関係無しに森羅万象が徐々に混ざり合っていく等、観ていてなんだかラブクラフト系のボディホラー映画な雰囲気もある。特に晒された影響で勝手に"変態"していく体に耐え切れず、狂気に駆られるアニャ(ジーナ・ロドリゲス)や先発隊の兵士の描写に心打たれた。段々と気が狂っていく兵士達や帰還したケインの人形じみた様子、虹色のを受けて周囲が激変する演出等は、ひょっとすると放射能汚染の凶悪さや、更にベトナムやイラクからの帰還兵に対するメタファーが含まれていたかもしれない。

透明な結晶の塔が立ち並ぶ灯台の様子から何となくダークソウルが彷彿させられた。灯台の中でレナと玉虫人間が対決するシーンのせいで変な性癖やフェチに目覚めそうである… それとラストはかなり後味が悪い。他の方のレビューは目にしていないが、個人的な意見としてレナ含めた二次調査団の探検より、ケイン率いた第一次先発隊のそれの方が余ほど怖そうだった。特にケインの行動には疑問が残る。ケイン以外は全滅したらしいが、つまりケインはアイツを少なからず仲間だと認識して灯台まで到達し、デジカメで自分を撮影させたのか? ケインの心境を思うと気が滅入ってしまう…

キチ●イになりたくなければ汝、寛容であれ

観察出来なければ学者には到底なれないらしい。「そんなの当たり前じゃねーか」と思われるかもしれないが、学者の観察というのは何が起ころうとも常に第三者視点で俯瞰して伺うという事らしく、例えば明日病院に行って「ステージ4のガンが見つかりました。もう長くなさそうなのでホスピスに入って下さい」と言われた場合、学者肌の人間であれば

  1. ガンがある
  2. ステージ4
  3. ガンのある部位は?また転移の状況は?
  4. ホスピスの日取り
  5. 保険会社との連絡

といった風に、頭の中で感情よりも速くチェックリストが自動的に構築されるらしい。自己に起こった不幸でも、学者人間であれば他人目線で冷徹に状況を分析できるという訳だ。実際「風邪かなぁ…」と思うより、「コレは風邪だ」と割り切った方が「じゃ治す為にどうするか」みたいな行動に移し易いとも聞く。しかし、目を疑うような状況でもそんな冷静に観察出来るものだろうか?

劇中のラデック(テッサ・トンプソン)とアニャ、主人公レナとヴェントレス博士の描写はそう見ると象徴的だと思う。レズビアンで腕っぷしの太いアニャが段々とパラノイドに陥り自閉的になっていくのに対し、自傷癖があったラデックはの分析をレナに語りながら悟りの境地でヒトガタの森の中へ消えてしまう。

ヴェントレス博士はそれこそ機械的に仕事に当たっていたが、中盤以降かなり衝動的になっている様に思える。レナも感情的になったりはするが、五人の中では良く言って寛容、悪く言うと無神経なまま任務に臨んでる風にも観えた。長生きしたい、でも狂人になりたくないなら寛容であれ、無頓着であれという教訓かもしれない。ジェニファー・ジェイソン・リーの演技は何となくイグジズテンズに出演時のアレグラを思い出させた。この気だるげで胡散臭そうなオーラは、唯一この人にしか醸し出せない天性の物だと思う。

評価は中々、しかし製作は難航した一作

元々はジェフ・バンダミア作のSF小説が原作で、三部作中の第一作目を映画化。試写段階では今ひとつな反応ながら、実際に配給されると手堅い評価を獲得した一本。しかし、監督のアレックスは第一作目のみに執着して製作した結果、原作ファンからは人種の設定などで批判を喰らっている。

また製作にあたって、それ以外にも色々と難儀があったらしい。主役の女性五人組も、希望していたキャスティングが次々とご破算に。いざクランクアップしてみても、配給担当であるパラマウントは試写会の反応を受け「もっと大衆向けな娯楽作品にして欲しい!!」とアレックス監督と大揉め。これらの交渉がまとまらず、劇場公開は暗礁に乗り上げてしまった。

結局、本作の配給権をパラマウントとNETFLIXが分譲するような形となり、北米などの一部地域で本作が劇場公開される一方、NETFLIXで全世界に公開される運びとなった。さっき劇場公開を開始したばかりの映画が、自宅のVODで既に配信済みってのも変な話ではある。パラマウントとは最後までトラブル続きだったが、監督のアレックスは本作の配給に関しては前向きで真摯な発言をなさってるので一安心。次の映画が脚本であれ、監督であれ、とても楽しみ。

*1:これはメイクの効果もそこそこあると思う。そう考えると化粧が与える印象の変化にも驚き。