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ディンの目から見通す現代、そして反戦の精神『マンダロリアン』S2EP7をザックリとレビュー

監督、キャスト、演出家達のキレ味鋭いアプローチ

オススメ強度:★★★★

来週にはシーズン2も終了となる中、全体の印象こそ少し地味な今回。ここまで皆勤賞だったベイビーヨーダも、一秒どころか全く画面に映らない。しかしながら、主人公ディンの目線を通して示されたテーマはかなり重く、暗い。

自分は平成初期のウルトラマン達を観て育った。その平成ウルトラシリーズの中にも、当時からして到底子供向きとは思えないような、暗いテーマを芯にしたエピソードが度々観られた。そして今回の連続SF活劇『マンダロリアン』も、まさしくそんな感じなのだった。

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リック・ファミュイワ監督の脚本、ゲスト出演の俳優さん方、そして小道具や雰囲気作りの演出等がとにかく渋くて鋭い。ビル・バー演じるメイフェルドを通して提示されたメッセージもまた凄まじい。何かしらの戦争が絶えないSTARWARSの世界。当然、白黒ハッキリしない事や矛盾も多くあるハズだ。

そんな中、何でもかんでも善か悪かにだけ区別しがちな私達を、製作陣はアンタらアタマ大丈夫ですか??(笑)と嘲笑した風にも感じる。SWにおいてストームトルーパー=どれだけ乱暴に扱っても良いフリー素材みたいな印象だが、彼らも平和と秩序を願って労働に勤しむ人間達なのだった。また『マンダロリアン』に参画中の監督達は、ディンとグローグーを通して慣れ親しんだ映画の投影を試みているようだが、今回は戦争映画からの引用が多数観られる点も見逃せない。

序盤、赤茶けた土と緑が続く荒れた土地に子供ばかりが目立つ集落、そして輸送車が道中で次々と破壊されて行く様子はベトナム戦争を彷彿させる。スピーダーで襲いかかって来る暴徒達も、そもそもの目的が燃料の強奪では無く玉砕してでも破壊する事に執着している点も、舞台となったモラックという星の現状を端的に物語っている。

メイフェルドの元上官ヴァリン・ヘスを演じたリチャード・ブレイク氏の演技に圧倒された。出番こそ短いが、ディンとメイフェルドに対し紳士的に対応する一方でワタシ、フツーじゃありませんよ感がとにかくスゴイ。実際に銀河帝国は崩壊したワケで、残党もそりゃ多少なりカルトらしくなるだろうが、このヘスが謳う歪んだ正義を通じて戦争の異常さ、残虐さがひしひしと伝わって来る。*1

また単なる戦争批判で無く、メイフェルドの

all those people, the ones who died, was it good for them?

あの時、命を失った人々。その一人一人にとっても善だったのか?

という啖呵から、何となく現アメリカのトップとして、やりたい放題やってるトランプ政権に対してもケンカ売ってるようにも窺えた。輸送車の運転席でディンにあーだこーだともっともらしい事を垂れる一方、食堂で檄に走るメイフェルドの顔から、一体この男が今まで何を見て来たのか?と考えさせられる。冒頭、ジャンクヤードで囚人として労働するメイフェルドの姿もあり、製作陣は今も全米で解決出来ずにいる退役軍人の苦痛を彼に投影したのかもしれない。

モラックの子供、ディンやボバ、輸送車に襲いかかる暴徒、そして銀河帝国の兵士たち。誰もが何かしらの信念を抱いて生きている。主人公ディンの人生を体験し、多少なり感情移入している私達にしたら「助かって欲しい‼」と思う訳だが、帝国の基地でブラスターに撃ち抜かれ、次々と倒れる暴徒達の姿を観た瞬間はやはり「悲しい」と感じたし、一方でディンとメイフェルドの帰還を祝福する帝国軍の兵士たちの顔を観て安心したりもする。

never thought you'd be happy to see stormtroopers.

ストームトルーパーに感謝する時が来ようとは、考えもしなかったな

やはり複雑…

 

改めて感じるキャスト達の妙

ボバについてまた細やかなディテールが追加された。アーマーが新調され、胸部プレートが一枚の装甲から、ディンと同じ分割型へとアップグレード。また乗降について謎が多かった、愛機のスレイヴ1についてもフォローがあった。どうやら中央の部屋のみ着陸の都度、90度回転する仕組みになっているらしい。更にEP2でオビワンにプレッシャーを与えた、サイズミック・チャージがまさかの再登場。音響兵器じみた独特の効果音を今回も披露してくれている。

タイトルの"信奉者"は登場人物が誰であれ、かなり意味深だと思う。主人公ディンは、今まで所属していたカルトなクランの教義に則って行動していたが、メイフェルドの言葉通り、あっさりその教義を曲げる事となる。演じているペドロ・パスカルは、今やすっかり馴染みの人気俳優なのに『マンダロリアン』の中で画面にそのゴツい顔が写ると、何故だか「え?大丈夫?」とショックを受けてしまう。

アソーカと出会って以後、より父親らしい雰囲気が強まったが、ここに来てマンダロワの教義よりもグローグーを優先させた事実に何かこみ上げる物がある。また素顔に慣れていないのか? ヘス、メイフェルドと三人で話し合う場面は、どこか心ここに在らずな感じで、普段のディンとのギャップにやられてしまった。

今回、キーパーソンというか主人公であるディンを喰ってるまであるミグス・メイフェルドを演じたビル・バーは、米国で大変著名なコメディアン。長丁場のスタンダップは勿論、シンプソンズ、FはファミリーのF等の脚本なども手掛けている。また自身のチャンネルで70万人のフォロワーを擁する超大物youtuberでもある。

S1EP6では憎まれ役だったが、今回かなり奥深い側面を付加されたメイフェルド。Disneyから様々なサプライズもあった事だし、今後のSWでもう一度拝んでみたいキャラクターだ。

*1:食堂の場面にだけ注目すると、クエンティン・タランティーノ監督の暴力シーンみたいな雰囲気。