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今春劇場公開作品を振り返る②~バーニング・オーシャン~

基本情報

原題:Deep Water Horizon

製作年:2016年

監督:ピーター・バーグ

脚本:マシュー・マイケル・カーナハン

製作主導:サミット・エンタテイメント,パーティシパント・メディア

製作国:アメリカ

 

登場人物

技術主任マイク・ウィリアムス:ピーター・ウォールバーグ

現場監督者ジミー・ハレル:カート・ラッセル

操舵士アンドレア・フレイタス:ジーナ・ロドリゲス

BP幹部ドナルド・ヴィドリン:ジョン・マルコヴィチ

掘削作業員ケイレブ・ハロウェイ:ダイアン・オブライエン

トランス・オーシャン幹部オブライエン:ジェームズ・デュモン

 

あらすじ

'10年4月20日。

海上石油掘削船『ディープ・ウォーター・ホライズン』に向かう一行の姿。

船のエンジニアであるマイク、現場を取り仕切る監督官のジミー、

船の操縦を担当するアンドレア、そしてトランス・オーシャンの幹部達。

馴染みの挨拶に、仕事の期間と内容などを交わす、いつもと変わりないひと時。

 

ヘリが船に着いたら直ちに仕事に取り掛からなければならない。

だが、その日はいつもと様子が違った。

入れ替わりで船を離れる作業員からの引継ぎもそこそこに

現場では掘削準備が急速進行していた。

お上であるBPの幹部二人が謳う『経費削減』を元に海底のセメント強度も

十二分に確認せぬまま、掘削を今すぐ始めようと言うのだ。

 

マイクやジミーは安全が保障されなければ、と反発するが

幹部らは納得しなかった。掘削の工期が大幅に遅延していたからだ。

仕方なく負圧テストで問題が見られなければ、との意見で一致。

一応、負圧テストの数値に問題は見られなかった。

内線でジミーに確認を取り、早速掘削が始まった。

一方、マイクは各設備の修繕に追われていた。

 

「問題ない。きっと大丈夫だ…」

いつもと変わりない仕事のはずだった。



レビュー&解説「見過ごされた安全保障、崩壊する安全神話」

オススメ強度:★★★★★

ローン・サバイバー(Lone Survivor '13 米)に引き続き、

ピーター・バーグ監督&主演ピーター・ウォールバーグのタッグでお送りする

石油掘削船での凶悪な人災事故という実話を基としたディザスター映画。

ローン・サバイバーの時もそうでしたが、冒頭から死亡フラグが連立しまくる

構成なのでグイグイ引き込まれました!(←私だけか)

掘削の管制室にてマイクが「サビを歌えよ」と言うと、

居合わせた管制官たちが「money...money...money...」と続けますが、

その後にマイクが「違うだろ?」と答え、更に歌うカットがヒドい暗喩になってます。

 

ちなみに主演のピーターと監督のピータータッグの実話ベースの劇場作品が、

六月に再び上映予定。'13年に発生したボストンマラソンテロ事件の発生から、

被疑者確保までの100時間を追ったサスペンス、「パトリオット・デイ」。 



ピーター・バーグ演ずる人物を通じ、事故・事件の様相を追体験する

スタイルはいずれも共通しています。実話がベースとは言え、

ドラマを構成するに当たり、もちろん脚色も含まれています。

 

序盤、マイクやジミーら登場人物達が船に乗り込むまでの日常を描写。

各々の日常風景の表現は思ったよりも短めで、

船に乗り込んでからは一気にドラマが展開します。

現場で働く下請けの作業員達は、いずれも南部育ちの豪快な男達。

劇中やエンドクレジットに掛かるカントリーが泣かせます。

各種設備の不調や会社内部のいざこざに始まり、不穏な空気を醸し出す船上。

いざ掘削を開始した後、各所で問題が多発し始め

次第に船全体が制御が出来なくなる様子は最早ホラーです。

 

劇中で語られるセメントテスト不備、負荷キルラインを正しく読み取れなかった事が

事故のトリガーである事実は間違いないのでしょうが、内線や冷房など細かな不調が

見逃されていた点も、ある意味企業体質の現れだったのかもしれません。

劇中では、実際に現場で事故を目の当たりにした当事者達の肉声や、

その後の顛末も簡潔にまとめられています。

11人の「死亡」と表現されていますが、アメリカ司法においては

現状でもこの11人は「行方不明」扱いなんだとか。

事故から早七年が経過した今となっては、正直中々厳しい物と感じられますが、

終盤、マイクに「自分の息子はどうなった!」と楯突く男性の様子を観てからだと

もし自分の家族が…と考えたら、少しの情報にでも希望を見出すのでしょう。

マイクの部屋にヴィドリンが現れ、二人の例え話のモチーフがまるで違う所が

現場の下請けと上級幹部の価値観の相違を象徴するかのようで、何だか印象的でした。

 

軋むパイプ、流動する泥と重油、停止と稼働を繰り返す施設、

最後には遂に爆発、炎上し崩壊するディープ・ウォーター・ホライズン。

3.11を経験した我々日本人にとっても見逃せないパニック映画です。

原発事故が何故発生してしまったのか?

現場で収束させる事が本当に出来なかったのか?

という問いに対し、東京電力は未だに裁判で争ってるワケですが、

この映画を観てからですと、あの日も同じような事が福島第一原発の現場、

あるいは東京電力という会社の内側でも起こっていたのだろうな、

と感じさせ、とてもやるせない想いです。

 

パイプ内を流れるオイルや泥を、さながら巨大な生き物のように表現した

製作陣の手腕に脱帽です。また劇場の音響も素晴らしかったです。

パニック映画マニアならば、そのスピーディな展開に舌を巻く事でしょう。

単なるディザスターというジャンルを超え、利益重視で安全保障を軽視し

暴走する企業への批判、更に、防災の啓蒙としても光る映画です。

また3.11後の日本人ならば、反面教師としても大変意義深い一本でもあります。

是非、劇場でご覧下さい。